昨年(2023年)11月下旬に、岐阜県恵那山登山中に左足アキレス腱断裂。歩行不可能な状態となり救助要請・遭難を経験した。その時を振り返り、遭難時に必要な装備について考察する。
恵那山(前宮ルート) / クラッシャーシンさんの活動データ | YAMAP / ヤマップ
遭難前日 2023年11月19日(日)曇り
前泊した中津川駅近くのホテルを朝早くチェックアウトし、駅前のBTよりウェストン公園行始発バ スに乗車。終点で下車後、装備を整え出発。もちろん他に誰もいない。山の上の方はうっすら雪化粧。林道を進み渡渉後から登山道。緩やかな登りだが5合目を過ぎると急登。雪もあるがチェーンはまだ必要ない。稜線からは雪が多くなりチェーン装着。トレースはある。1人かな?案の定、長野県側からのルート合流の少し前で下山してきたソロの男性と会う。軽く会釈。結局、この日に会った登山者はこの方だけ。雪も増えてきた。20~30㎝程度。しかしトレース(長野県側からの登山者がいたようだ)はしっかりある。稜線からの夕日がきれい。避難小屋に到着。17時を過ぎているので頂上は明日に持ち越し、小屋で夕飯そして就寝。
【頂上への稜線からの夕日】

【頂上避難小屋】

遭難当日 2023年11月20日(月) 小雪のち曇り
6時前に空荷で頂上ピストン。小雪のため眺望なし。避難小屋にデポしたザックを背負い下山開始。1時間半ほど歩いて行者越えにさしかかる。50㎝程の段差。下は平らなのでジャンプ。しかし着地した瞬間に左足アキレス腱に衝撃が走る。『しまった!』と思った瞬間には遅すぎた。アキレス腱が断裂した可能性が高い。10数年前にバレーボール最中に同じ左足アキレス腱断裂を経験しており、似たような感じ。左足を地面に着くと激痛。ハイカットの登山靴なのでアキレス腱を触ることはできないが、断裂と判断。『ここでビバーク、遭難か・・・』。
【救助を待っていたところから下山方向】

遭難 0800時
ビバークを覚悟。どうせ携帯は通じないだろうと考えていたが、雲の切れ間に山麓が見える。もしかしたら、スマホのアンテナが立っていることを確認。『ラッキー!救助要請ができる』以下、消防・警察との通話記録(記憶に残っている範囲。尚、会話はまとめて記載しているが、実際にはやり取りが数回続いています)。
<通話記録>
【当方】消防署ですか?恵那山登山中にアキレス腱を断裂した模様。歩行困難なため救助をお願いします。
【消防】了解した。現在位置は。位置情報を送ってほしい。現在は曇っておりヘリでの救助はできない。地上から救助に向かう。天候が回復すればヘリが飛べるので、山の天気が変わったら情報を知らせてほしい。低体温症に注意して暖かくしているように。
【当方】位置情報を送ります。現在の天気は曇り時々小雪が舞っています。地上は見えません。この場所は樹林帯ですが、葉っぱがないので上空は見えます。
【消防】地上部隊は恵那側と長野県上田側の2方向から向かっている。
【当方】ありがとうございます。天候の変化があればご連絡します。
以降、数回の着信があり、12時過ぎに
【消防】12:15前後にヘリで救助に向かう。ヘリが見えたら合図をするように。
【当方】承知しました。
救助待ち(救助要請後の対応) 0900時
救助要請が8時、救助部隊は9時前後には出発したと想定しここまで4~5時間。救助は13時前後になると判断し、ツエルトは張らず以下の態勢で待つことにした。
【待っていた時の状態】 曇り時々小雪で微風 雪は10㎝程度、気温はマイナス3度前後
・座る場所を整地し、シュラフの下に敷くマットを折りたたんで座布団状態として座る
・下半身:ツエルト巻き(パンツ、ストレッチタイツ、冬季用ズボン)
・上半身:ウェアを着こみ(ベースレイヤー、ミドルレイヤー、ソフトシェル、レインウェア、)中綿入りハードシェルを最後に着込む
・厚手のアルミシートで全身を囲って、風除けとする
【当日の装備品】
・非自立式ツエルト
・水(1.5リットル)、カフェオレ(朝作ってサーモスのボトル0.7リットル)
・食料:ロールパン5個、インスタントラーメン1袋、カロリーメイト3箱、羊羹3本、ミニブラックサンダー3袋、ビスケット半箱
・厳冬期用シュラフ、シュラフカバー
・ガスバーナー、LPガスボンベ(100g-α)
・ラジオ、スマホ用バッテリー(スマホ3回分)、ヘッドランプ、折り畳み式太陽光発電ランタン
・エマージェンシーキット(包帯、消毒液、テーピング、乾電池、結束バンド等々)
・レインウェア(上下)、着替え(靴下、パンツ、ロングTシャツ 但し、何れも厳冬期用ではない)
*厳冬期用ダウンは持参せず、ポリエステル製ソフトシェルと中綿入りハードシェルは着用済
・手袋(テムレス&冬用手袋)
・ここヘリ、YAMAP導入済スマホ
【救助を待っていた時の状態】

救助 1245時
ヘリの音が聞こえる。だんだん近づいてきて視界に入る。ツエルトをはぎ取り上空に来たヘリにツエルトを振って合図。しばらくホバリングしていたが去っていった。『やはり木が邪魔で救助できないか・・・。残念。』しかし頂上方向100m前後の所でまたホバリングしている。そして去って行った。再度、待ちの態勢に戻る。暫くすると頂上方向から音がする。そして2人が向かった来る。岐阜県警ヘリから降下してきた救助隊であった。その後、地上部隊(先行隊?)2名も到着。ヘリでこの場所からの救助は無理との判断から、下山方向100m弱の開けたところでヘリを待つことになった。尚、救助隊が降下した場所へは【行者越え】を登ることになる。足の状態から無理と判断し、前述の写真の場所をよじ登り(ハーネスで救助隊の方が引き上げてくれた)ハイハイして救助場所へは向かった。風は少し強かったものの、何とかワイヤーが下りてきて救助された。その後は、救急車で市民病院へ搬送。緊急手術、3日後に退院。
装備考察
遭難に備えた装備は準備していたことから、装備不足による不安は生じなかった。一方で携帯が通じなかった場合はビバークとなる。おそらく最低気温はマイナス10度程度(前日の小屋での最低気温がマイナス5度)と推測される。遭難した場所のスペースと足の状態からツエルトを張れない状況でも、シュラフ&ザック(下半身)とアルミシートで対応可能であったと思う。しかし仮に寒波が来たとしたら低体温症の危険性も。以上を考えると、
①怪我した状態でも設営可能な自立式ツエルトの検討
②厳冬期ではなくても、厳冬期用ダウンの持参(今回持参した中綿入りハードシェルと容積・重量に差はほとんどない)
の2点について今後実施したい。
またヘリへの合図であるが、ツエルトの色(オレンジ色)では積雪期以外は目立たない。やはり青色の装備(現状はレインウェアだけ)類は持参すべきであり、登山用発煙筒も要検討と思われる。更に位置情報装置としては①ここヘリ、②YAMAP導入済スマホは持参していたが、加えて③ガーミンInstinct 2X Dual Power Tactical Editionを購入し、位置情報に関しては紛失・故障等への対策を充実させた。
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